投影の裏表

悪魔のように繊細に、天使のように大胆に

⇨ 黒澤明

 

肯定的な投影は、警告もなく、否定的な投影と入れ換わることがあります。肯定的なアニマを投影されていた女性が、突然否定的な、魔女のイメージを投影されるのです。男性は自分の気分が悪いのは、彼女に原因があると考え、突如としてこの見地から彼女を見始めます。不幸なことに男性は自分の不機嫌な気分を、相手の女性に負わせる常習犯です。原則として、自らの心理機能について何も知らない男性は、自分の不機嫌を女性のせいにしがちです。

 

女性の場合も同様にして、投影の入れ換えが起こります。肯定的なアニムスを男性に投げかけた場合、救済者、英雄、精神的指導者などのイメージの投影が起こります。彼女は彼に魅了され、究極の男性、理想の恋人と見なします。彼女は彼によってのみ完全になれると考え、自分を見つけたように感じます。

 

この種の投影は、とりわけ、言葉を巧みに操る男性に向けられるのが普通です。女性からすると、観念を巧みに操り、伝達能力にたけた男性はアニムスを投影するにふさわしい理想の対象です。こうした投影が起こると、彼は彼女にとって実物以上の存在になり、自らは松明に引き寄せられる蛾のような存在になります。このようにして彼女は自分の創造性の焔を男性に投影して、焔を失った抜け殻になるのです。

 

しかし、投影を受ける男性が、投影に値しない例はいくらでもあります。アドルフ・ヒトラーは、当時多くの女性からアニムス像を投影されました。ヒトラーには言葉を操るカリスマ的才能があり、彼が演説すると何か神がかったような雰囲気が醸し出されました。ガス室送り寸前で幸いにもドイツから逃げることが出来た女性に、「ドイツの母親たちは、なぜ戦争で殺されるのも厭わずに、大切な息子をヒトラーに捧げたのでしょう」。と質問すると彼女は、

ドイツの母親たちは彼の言葉にすっかり魅了されていましたから、彼の要求ならどんなことでもしたでしょう」。と答えました。

 

女性から肯定的なアニマを投影された男性は、自尊心をくすぐられます。理想の男性と見立てられる経験ほど、男性の自我を膨らませるものはありません。男性は簡単に、投影されたイメージを現実のものだと勘違いし、自分の本当の姿を見つめるための、謙虚な務めから逃走します。しかし、そのうち男性もまた、他人の投影を担うことに不愉快を感じ始めます。

「誰かが私にアニムスを投影したときには、私はまるで、自分がとびきり重い死体を収めた墓場のような気持ちになる。イエスが語るあの墓場、あらゆる害虫がうごめくあの墓場のようなものである。私自身がほかならぬ死体であるから、およそ生命というものが感じられない。アニムスは私の体内に埋葬される。寄生バチの卵が宿主の体内で孵化し、内側から食い破るように」。⇨ C・G・ユング

➡(投影されたアニムスは、心理的機能として成長することをやめ死んだ存在になる)

 

以前には魅力的に輝いていた男性が、腹立たしい、失望するような男性に変貌します。親しさによって、二人の関係が現実の光の中にさらけ出されると、肯定的な投影が剥げ、以前の英雄はたちまち悪魔に変身します。女性が感ずる失望感と無力感は、すべて彼の責任に転嫁されます。

⇨ ジョン・A・サンフォード「見えざる異性」創元社より

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