加工食品とエントロピー
ジェレミー・リフキン「エントロピーの法則・21世紀文明観の基礎」祥伝社 より
■パン1個の生産過程でエネルギーはどれだけ使われるか
次に、製品の生産過程におけるエントロピー問題に目を向けてみよう。製品を生産する過程において、言うまでもなく、そのいずれの過程においてもエネルギーが消費される。エネルギーの一部は製品のなかに吸収され、他の一部は無駄に費やされる。
要するに、経済過程が進歩するということは、それだけ多くのエネルギーが失われることを意味するのだ。先に食物連鎖について述べたが、それと同じことが生産過程にも当てはまる。すなわち高度の工業社会において、経済過程の段階が進行し続ければ、それにつれてエネルギーの消費が高まる。その結果、エントロピーの無秩序も増大して、すぐには解決のつかない大きな問題が、社会にもたらされることになる。
たとえば、マフィンを例にとってみよう。小麦を成長させるための現代の石油化学農法は、まさに非効率なエネルギー利用の極端な例であるといえる。つまり、小麦が大きくなって収穫されると、アメリカ人の加工食品好きといった国民性もあってか、ばかげたことが幾重にも積み重ねられていく。
1、再生不可能な資源である化石燃料で駆動するトラックで、小麦を、2、大型集中製パン工場に運ぶ。3、工場には無数の機械があって、マフィンの精製、強化、焼き上げ、包装を行う。工場では小麦を製粉し、4、しばしば漂白する。5、こうした過程を経て、真っ白なパンが出来上がるが、小麦の持つ大事な栄養価が失われてしまうので、ニコチン酸、鉄分、チアミン、リボフラミンを加えて強化する。6、ついで、長距離トラック輸送で販売店に運ばれ、何日もあるいは数週間も店頭に陳列されることを考えて、防腐剤としてプロピオン酸カルシウムを加え、7、それと同時に生地調整剤として硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸アンモニウム、イースト菌、臭化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウムなどを添加する。8、こうしてパンを焼き、9、薄手のボール箱の中に納める。10、この紙箱はまた、客の目を引きつけるために、カラーの多色刷りとなっている。
さらに、11、マフィンの入った紙箱を石油化学薬品製のビニール袋に包み、12、石油化学薬品製のビニール紐で閉じる。13、包装したマフィンをトラックに積み込む。14、空調が効いて、照明で照らし出されたトラックは、BGMの流れる食料品店に横づけされる。15、最後に客が二トンの金属隗である自家用車で店に乗りつけ、16、マフィンを買い、家にとって返すとトースターに入れて焼く。17、挙句の果てには、紙の袋とビニール袋はぽんと捨てられてしまう。これが固形廃棄物となるので、処理する必要が生じる・・・。これだけ大仰な過程を経てできたものは何かというと、一個当たりわずか130キロカロリーのマフィンなのである。