タイプ1と強迫性人格障害
マガジン9/第86回:なぜ日本のコロナ対策は遅いのか(森永卓郎) 2020年6月17日 より
作業は、それでは終わらない。印刷業者から上がってきた予算書を逆さまにして、数字のところに定規を当てて、「,」のひげが出ているかどうか一つひとつチェックするのだ。例えば、1,000円というのが誤植で1.000となっていると、1円になってしまうというのだ。そんなことは、前後関係をみれば誤植であることは明らかなのだが、ひげの欠け一つも絶対に許されない。役人は、完全無欠でなければならないからだ。
ドン・リチャード・リソ「性格のタイプ」春秋社 より 不健全なタイプ1(外向的思考型)は強迫性パーソナリティ障害に相当する
MSDマニュアル・プロフェッショナル版 より
■強迫性パーソナリティ障害
強迫性パーソナリティ障害は,結果的に仕事を遅らせたり,仕事の完了を妨げたりするような規律性,完全主義,およびコントロール(柔軟性の余地がない)への広汎なとらわれを特徴とする。診断は臨床基準による。治療は精神力動的精神療法,認知行動療法,およびSSRIによる。
⇨強迫性パーソナリティ障害患者は物事をコントロールしている状態にあることが必要なため,努力を行っているうちに孤独になり,他者の助力を信用しない傾向がある。
⇨一般人口の約2.1%が強迫性パーソナリティ障害を有していると推定され,男性に多い。
⇨強迫性の家族特性,感情の範囲の狭さ,完全主義がこの障害に寄与していると考えられている。
⇨併存症を認めることもある。患者は抑うつ障害(うつ病または気分変調症)またはアルコール使用障害も有することが多い。
強迫性パーソナリティ障害の症状は1年で緩和することがあるが,症状の長期的な持続性は研究されていない。
強迫性パーソナリティ障害患者では,秩序,完全主義,ならびに自身および状況のコントロールに対するとらわれが柔軟性,効率,および率直さの妨げとなる。自分の活動について柔軟性がなく,頑固である患者は,あらゆる物事が特定の方法で行われなければならないと主張する。
コントロールしている感覚を維持するために,患者は規則,詳細,手順,スケジュール,およびリストを重視する。その結果,計画や活動の要点が見失われる。このような患者はミスがないか繰り返し確認し,細部に法外な注意を払う。時間を有効に利用することがなく,しばしば最も重要な仕事を最後まで残してしまう。細部および全てを完全にすることへのとらわれのために,完了が際限なく遅れることがある。患者は自分の行動が同僚に影響を及ぼしていることに気づかない。ある仕事にかかりきりになると,生活の他の側面全てを怠ることがある。
あらゆることを特定の方法で行おうとするため,仕事を任せたり,他者と一緒に働いたりすることに困難がある。他者と一緒に働く場合,患者は仕事をどのようにやるべきかについて詳細なリストを作成し,同僚が別の方法を提案すると動揺することがある。スケジュールに遅れている場合でも手助けを拒否することがある。
強迫性パーソナリティ障害の患者は,仕事および生産的活動に過度に専心し,その専心は経済的な必要性を動機としていない。その結果,余暇の活動や人間関係が軽視される。患者はリラックスしたり,友人と出かけたりする時間がないと考えることがあるが,休暇の取得を長く先延ばしにして,結局休暇を取らなかったり,取っても時間を無駄にしないように仕事をもっていかなければならないと感じたりする。友人と過ごすことになっても,その時間は改まって準備された活動(例,スポーツ)に費やされることが多い。趣味やレクリエーション活動は,習得のための計画および勤勉性が必要な重要な課題とみなされ,その目標は熟達となる。
このような患者は前もって極めて詳細に計画を立て,変更を考えることを望まない。患者の手加減のない柔軟性のなさのために同僚や友人が苛立ちを覚えることがある。