フルメタル・ジャケット
スタンリー・キューブリック監督「フルメタル・ジャケット」1987年
■A・ローウェン「ナルシシズムという病い」新曜社より
あらゆるナルシシストが権力を獲得するわけではないし、権力をもつ人間がみなナルシシストというわけではないけれども、権力への欲求はナルシシズム障害の一部である。
ナルシシストには、強い感情をの持つための、効果的な力が欠けており、そうした欠乏を補うために、彼らは権力を追い求める。権力はナルシシストのイメージにエネルギーを賦活し、それ以外では手にすることのできない力を与える。
お金や権力があれば、人はどんなイメージにも、見た目の重要性と力を付与することができる。爆弾やピストルがあれば、どんな弱い人間も、自分を世界の強力な勢力と見ることができるのだ。そうなれば彼らは、普通の人間の持たない破壊力を持つことになるからである。
人に傷つけられたり、拒否されたり、侮蔑されたりすれば、我々は誰でも痛みを感じる。だが、誰もが感情を拒否したり、怖いもの知らずの超人といったイメージを投影したり、権力を渇望したりするわけではない。その違いは幼児体験にある。
ナルシシストは子供のとき、深刻な自己評価への痛撃をこうむっている。この外傷は屈辱感、とりわけ権力の行使に対して、無力のままでいるという経験を伴っている。私は、単独の経験で性格ができるとは思わないが、子供が何らかの形で、絶えず屈辱感にさらされていれば、身体にも精神にも、屈辱の恐怖が構造化されていくことになる。
このような人間は、苦も無く次のように誓うことができるだろう。
「大きくなったら私は権力を握り、お前にも誰にも、二度とこんなことを私にできないようにしてやる!」
不幸にも我々の社会では、こうしたナルシシズム的外傷が、多くの子供たちに生じている。なぜかと言えば、自分の子供を左右する力を、自分の個人的な目的のために利用する親が多いからである。