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快楽主義の地獄

エーリッヒ・フロム著「生きるということ」紀伊國屋書店

18世紀以来、多くの倫理学上の理論が展開されてきた――その或るものはよりりっばな体裁を整えた快楽主義で、たとえば〈功利主義〉であった。或るものはまったく反快楽主義的な体系で、たとえばカント、マルクス、ソーロー、そしてシュヴァイツァーのそれであった。


ところが現代はだいたい第一次世界大戦の終わりごろから、徹底的快楽主義の慣習と理論にもどってしまった


限りない快楽の概念は、規律ある労働の理想に対する奇妙な矛盾を生みだすのであって、それは仕事に対する執念を倫理規範として受け入れながら、一日の残り時間と休暇の間は完全になまけることを理想とする、という矛盾に類似している。


一方には流れ作業のベルトコンベヤと官僚制的日課があり、他方にはテレビ、自動車、セックスがあって、この矛盾した組み合わせを可能にしている。仕事に対する執念だけでは、完全になまける場合とまったく同じように、人びとは気が変になるだろう。この組み合わせがあるから、彼らは生きることができる。


そのうえ、これらの矛盾した態度はともに或る経済的必然性に対応している。すなわち、20世紀の資本主義は、日課としての共同作業のみならず、生産される商品およびサービスの最大限の消費に基づいているということ。


理論的に考察すれば、人間性というものがある以上、徹底的快楽主義は幸福をもたらしえないということが、なぜかという理由とともに明らかになる


しかしたとえ理論的分析をしなくても、観察しうるデータが、私たちの〈幸福の追求〉のしかたは福利を生みださないことを、きわめてはっきりと示している


私たちは名うての不幸な人びとの社会である。孤独で、不安で、抑鬱的で、破壊的で、依存的で――必死になって節約に努めている時間を、一方でつぶして喜んでいる連中なのである

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