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死ぬことの恐れ

エーリッヒ・フロム著「生きるということ」紀伊國屋書店


さきに述べたように、自分の所有物を失うかもしれないという恐れは、持っているものに基づく安心感の避けがたい結果である。私はこの考えをもう一歩進めたい。財産に執着しないこと、ひいてはそれを失うことを恐れないことは、可能であるかもしれない。


しかし、生命そのものを失う恐れ――死ぬことの恐れは、どうだろう。これは老人や病人だけの恐れだろうか。それともすべての人が死ぬことを恐れているのだろうか。死ななければならないという事実は、私たちの生のすべてにしみ込んでいるのだろうか。死ぬことの恐れは、老齢や病気によって生命の限界に近づくにつれて、より強くより意識的になるばかりなのだろうか。


(中略)一方現代において、とくにアメリカにおいて見られる、死体の〈美容〉による死の否定も同じように、ただ死を擬装することによって死ぬことの恐れを抑圧していることの現われである。死ぬことの恐れを真に克服するには、ただ一つの方法――仏陀によって、イエスによって、ストア派の哲学者によって、マイスター・エックハルトによって、教えられた――しかなく、その方法は、生命に執着しないこと、生命を所有として経験しないこと、によるものである。死ぬことの恐れは、生きることをやめることの恐れのように見えるが、実はそうではない。


(中略)確かに、死ぬ前に起こるかもしれない苦しみや痛みの恐れはありうるが、この恐れは死ぬことの恐れとは違っている。死ぬことの恐れはこのように非合理的に見えるかもしれないが、生命が所有と経験される場合には、そうではない。その場合の恐れは死ぬことの恐れではなく、持っているものを失う恐れである。それは肉体、自我、所有物、同一性を失う恐れであり、同一性を持たず、〈失われた〉者の深淵に直面する恐れである。


持つ様式に生きているかぎり、それだけ私たちは死ぬことを恐れなければならないいかなる合理的な説明も、この恐れを除いてはくれないだろう。しかし、まさに死のうとする時でさえ、それを軽減することはできるのであって、それは生命へのきずなをさらに主張することによって、また私たち自身の愛をも燃え立たせるような他人の愛に反応することによって、可能なのである。


死ぬことの恐れをなくすことは、死の準備として始まってはならないのであって、持つ様式を減少し、ある様式を増大するためのたえぎる努力として始まらなければならない。スピノザが言うように、賢明な人は生について考え、死については考えないいかに死ぬべきかの教えは、実際いかに生きるべきかの教えと同じである。


あらゆる形の所有への渇望、とくに自我の東縛捨てれば捨てるほど、死ぬことの恐れは強さを減じる。失うものは何もないからである。


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