カルバンの教え
ジャック・ブロス「世界宗教・神秘思想百科」JICC出版局
カルバンにはルターの激しい歓喜も寛大さもないが、誰も彼を独創性が少ないと非難はできない。というのは、彼が霊感を受けるのは自分の教義からだからだ。ルターは神秘主義者で個人主義者だったが、法律の教育を受けたカルバンは、まず新しいキリスト教都市を実現したかったのだ。そしてジュネーブを《神に奉仕し、その状態を保持すること》と、徳高く公平で慈悲深い人間を形成することを目的とする都市にしたかった。
彼が創設した教会組織は、教区会議から地域および国家の教会会議にまでまたがる、牧師と一般信者とで作られた重層的な議会で構成されている。まさに近代民主主義を予告するシステムである。
ルターよりも暗いカルバンは、人間の本性について根源的なペシミズムを示している。まず人間は、もともと自由であったが、神と一体になって初めて永遠の生命を獲得することができた。しかし、神に従わない人間は、反逆者、つまり「誘惑者」の犠牲になった。それを乗り越えるために何も企てることはできない。唯一、神が発する恩寵が、その隷属状態から解放させるのだ。
この神の至高性を肯定するカルバンは、それゆえ絶対的な救霊予定説を表明するようになった。この説は彼の後期の著作に表れ、現在のカルビニストたちは留保なしには同意していない。カルバンは、アウグスティヌスが表明した二重の救霊予定の主題をふたたび取り上げる。
選ばれた人は神の無償の慈悲を表すが、不信者は罪に対する神の復讐の怒りを示す。カルバンは神の怒りを極端に押し進める。復讐の怒りは「堕落」以前、「宇宙創造」以前に神によって発せられたのだ。
カルバンがジュネーブで著述し、カルビニズムの永遠の特徴の一つになった社会的な人文主義の形は、きわめて我われ現代のものに近い。
神の民は、連帯している。この立場のもとで、彼らはお互いに相互援助をしあっている。だからカルバンは、病人や傷疲軍人や老人の救護の社会組織やめいめいに充分な糧を保証する雇用の規則を初めて作ったのである。