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無限の「立場地獄」

どれだけ国を挙げて働き方改革を志向しても、ブラック企業やパワハラがなくなる兆しはない。その元凶は、日本人の心の奥深くに根ざしている価値観によるものだ。➡ 東京大学東洋文化研究所教授 安冨歩


2017.8.21 DIAMOND online:ブラック企業は日本社会の「立場」主義が生み出している より


日本は、実のところ民主主義の国ではありません。基本的人権に基づいて、国民一人ひとりが尊重されることはなく、代わりに尊重されるのは「立場」です。日本の「民主主義」が意味するところは、「すべての立場は尊重されねばならない」です。この、日本立場主義人民共和国の憲法は、以下です。


前文:立場には役が付随し、役を果たせば立場は守られる

第一条:役を果たすためには、何でもやらなければならない。(国民の義務)

第二条:立場を守るためだったら、何をしても許される。(国民の権利)

第三条:人の立場を脅かしてはならない。(国民の倫理)


立場主義で尊重されるのは「立場」であり、「個人」ではありません。従って、日本に「人権」は存在しません。「さすがに言い過ぎじゃないのか?」と思う方もいるかもしれませんが、立場主義による人権無視は、日本中の至るところで見られます


大学に入ると、学生たちはクラブ活動にいそしみます。最初の顔合わせ時は、お互いに少し緊張気味にキョロキョロし、自分の「立ち位置」を模索します。これは、動物がお互いのニオイを嗅ぎ合うようなもの。「お兄さんキャラ」「いじられキャラ」などの目に見えない「立場」があり、ニオイを嗅ぎ合いながら、「俺はこのキャラだな」「お前はこっちだろう」というような立場の配分が無言で行われます


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時には、先輩(ボス)が立場を割り振りますが、彼らも絶対権力を持つわけではありません。ボスがニオイを的確に嗅げず、ズレた割り振りをすると、ボスの座から追い落とされかねませんから、ボスだって緊張します。こうして割り振られた立場から、メンバーたちは逃れることができず、各立場に付随する役を必死にこなします。もし役をこなせなければ「ぼっち」になる。これが友達地獄の始まりです。


企業に入れば、名刺を持ちます。私は大学卒業後、住友銀行(当時)に入行しましたが、客先では「住友さん」と呼ばれたものです。名作アニメ『機動戦士ガンダム』では、ひ弱な青年・アムロが、カッコいいモビルスーツ・ガンダムに乗り込んで活躍する様が描かれていましたが、これはサラリーマン世界で「住友銀行」といった強力な名刺を持った若造の表象です。そして、個性を伸ばしながら一人前になるのではなく、「住友マン」であることを徹底的に叩き込まれます。


家庭では、子どもが生まれれば夫婦は「パパ」と「ママ」。このように名前ではなく立場で人を呼び、立場と立場でコミュニケートするというのが、日本人の意識にしみついているのです。個人が自分の考えを優先し、立場をないがしろにすることは許されません。


一方、立場のない人は役もありませんから、極端なことを言えば「死んでもOK」。だから日本人は「役立たず」になることを異様に恐れるのです。昨年起きた、相模原障害者施設大量殺傷事件の犯人は、「障害者は役立たずで社会に負担をかけているから殺すべき」と考え、それを実行しました。彼ほど極端ではないにしろ、多くの日本人は、彼の思想を薄めたような価値観を持っています。このことから目を背けるべきではありません

「無縁者」が世界を救う

2017.8.21 DIAMOND online:ブラック企業は日本社会の「立場」主義が生み出している より


このような社会構造ですから、日本人は皆、よりよい立場を手に入れようとがんばります。「家柄」と「学歴」とが、良い立場につくための重要な要素です。あとは「真摯さ」。真摯さを辞書で引くと、「ひたむきさ、物事を一心に行うさま」とあります。この美徳は、与えられた役を必死にこなすことであり、主体的な生き方を意味しません


自分で考え、自分の信念に従って行動する人を、日本人社会では「真摯」と褒めたりはしません。自分で考える人は、必ずしも立場に割り振られた役の通りには動きませんから、「みんなに迷惑をかけて身勝手だ」と責められます。


ブラック企業では、非人道的な労働を強いて(=役を与えて)、労働者が「もうできません」と悲鳴を上げると「みんなに迷惑がかかる」(=与えられた役をこなさず、他人の立場をおびやかしている)と責めます


これは、人権の観点から見れば当然、酷い話ですが、立場主義の観点から見れば「正論」です。つまり、ブラック企業の言い分は、日本社会では正当性を帯びているのです。私は、日本からブラック企業がなくならないのは当たり前だと思っています。立場主義の国に民主主義の価値観を当てはめれば、日本そのものがブラック国家だからです。


立場主義をよりよい形にする可能性があるとしたら、それは「無縁」の再導入です。「無縁」とは網野善彦という偉大な歴史学者の発見した概念で、それは「縁」が「腐れ縁」に堕落したら、その縁を切っても良い、という倫理観のことです。そして、その無縁の原理を体現した人を、「無縁者」と呼びます。


バブル期までの日本企業には、無縁者の活躍が至るところで見られました。たとえば、NHKの『プロジェクトX』でよく知られているように、日本ビクター(当時)のVHSは、窓際技術者たちによる、隠れプロジェクトが開発したものでした。昔は、こんな得体の知れないプロジェクトにも、ちゃんと予算と人が付くくらいの余裕が、日本企業にはあったのです


立場にがっちりついて役を果たし、派閥抗争に明け暮れるサル山根性オヤジだけでは、企業は成長しません。創造性あふれる仕事は、出世や派閥抗争とは無縁の人たちの得意とするジャンルなのです。


昭和の日本企業は、無縁者が組織に居着ける余地を持っていました。だからこそ、日本企業はダイナミズムを発揮して世界に重きをなしたのです。残念ながら、今では無縁者は排除の対象でしかありません。


高齢化が進む一方でAIが進化し、アジア諸国も発展していく。こんな環境下で、無縁者を排除した立場主義一辺倒を貫いていたのでは、日本は発展しようがありません。それはがむしゃらに働けばなんとかなった時代の価値観です。


今、不登校の子どもが増えていますが、私には、聡明な子どもたちが「学校で立場主義なんか叩き込まれても意味がない」と悟り、立場主義システムへの非暴力的抵抗運動を展開しているように思えてなりません。


立場主義の硬直性を緩和し、創造性あふれる仕事をできるのは、無縁者です。日本社会は今一度、無縁の原理を再導入すべきなのです。それが日本の未来を切り開く道です。



自己縮小的解決法(追従型)

ドン・リチャード・リソ著「性格のタイプ」春秋社


■カレン・ホーナイとエニアグラム

精神分析学者カレン・ホーナイ(1885~1951)は、彼女の臨床観察を基に、神経症には三つの一般的な「解決」があると示唆した一


「他者から離れる」(「遊離」タイプ)

「他者に対抗する」(「攻撃」タイプ)

そして、「他者に近づく」(「追従」タイプ)である。


これら一般的な神経症の解決は、非常に広範囲に、しかも正確に、性格のタイプを分類する有効な方法である。


・原注:カレン・ホーナイ『心の葛藤』14~18頁参照。ホーナイは、それぞれの解決に一章ずつ当てている。私はまた、彼女の『神経症と人間の成長』を高く評価して推薦する。その中で彼女は、


「自己拡張的解決」ー「他者に対抗する」攻撃タイプ

「自己縮小的解決」ー「他者に近づく」追従タイプ

「あきらめ」ー「他者から離れる」遊離タイプという表題で三つの型を発展させている。


私たちは、(三つ組〉が、感情と行動と関係の問題領域として、互いに弁証法的に関連していることを、すでにみてきた。ホーナイの対人関係の概念によって導入された分析段階には、もう一つ弁証法的関係が存在する


自己縮小的解決2


それぞれの<三つ組>において、これらの名称を次のように解釈することができる。

<感情の三つ組>において、

タイプ2は、すべてよしという自分の自我像に従順である
タイプ3は、他の人々に対し攻撃的(すなわち競争的)である。
タイプ4は、引きこもっていて、自分の感情を直接に表現しない。

<行動の三つ組>において、

タイプ5は引きこもっていて、行動を避け思索の世界へ入っている。

タイプ6は、権威の象徴に対し従順(すなわち頼っている)である
タイプ7は、自分の欲望を満たすことに対して攻撃的である。

<関係の三つ組>において、

タイプ8は、自分の思いどおりにすることを攻撃的に強制する。
タイプ9は、自己の発達について引きこもって(表立たない)いる。

タイプ1は、自分が努力している理想に追従している


自己縮小的解決

超自我・追従タイプ

ドン・リチャード・リソ著「性格のタイプ」春秋社


■フロイト派の構造的概念

フロイト派の「構造的な」用語は、また、九つの性格の基本タイプのそれぞれにおいて、自我、イド、あるいは、超自我のどれが問題領域の焦点になるかによって、 エニアグラムの性格のタイプに適用することができる。私は次の頁に図示したように、ホーナイの用語をフロイトの構造的な用語に加えた


自己縮小的解決3


主要な不安定が自我の中に存在するタイプはホーナイの遊離タイプに相当し、その不安定がイドに存在するタイプは攻撃タイプであり、その不安定が超自我に存在するタイプは追従タイプであることにも留意されたい。


こうした名称は、 一般常識の観点からも意味がある。たとえば、攻撃的な人は、なんらかの方法で、イドの本能的エネルギーに支配されている。これらの相互関係は、さらに次のように解釈できる。


タイプ4、タイプ5、タイプ9は、自分の自我を直接表現することから全面的に「引きこもって(遊離して)おり、それぞれ特有の方法でその埋め合わせをする ̈タイプ4は、自分の想像力を通して現実から遊離することで、タイプ5は、その思考過程にすっかり夢中になって現実から遊離することで、そして、タイプ9は、他の人と深く一体化することで現実から遊離することによって。


自己縮小的解決


タイプ1、タイプ2、タイプ6は、自分の行動に支配的な影響力を行使する誰か、もしくは、なにかを自分の超自我に内在化させたものに全面的に「追従」する。タイプ1は、自分の超自我によって自分に課せられる理想的な責務に対して従順である。タイプ2は、常に愛らしくあるようにという自分の超自我の要求に従順であり、タイプ6は、自分の超自我を通して内在化させた権威の象徴に対して従順である。


タイプ3、タイプ7、タイプ8は全面的に攻撃的である。すなわち、彼らのイドは、自分の環境のさまざまな面に攻撃的に適応する。タイプ3は、自分自身を有利なように比較したい人々に対して攻撃的(競争心が強い)である。タイプ7は、そこから自分自身のためにより大きな満足を引き出そうとする自分の環境に対し攻撃的(なにかを得ようとする)であり、タイプ8は、環境が自分の反映となるように環境の中に常に自分自身を投影しようとして、環境に対し攻撃的(自己主張的)である。

父親に向いたタイプ

ドン・リチャード・リソ著「性格のタイプ」春秋社


エニアグラムにはなぜ性格の基本タイプが九つあるのか、その理由を、もう一つの観点、子供と両親との関係という観点から考えると、理解することができる。発達上の観点からみれば、 エニアグラムは、あらゆる時代とあらゆる文化のすべての人に適用することができる普遍的な類型論である。


なぜなら、 エニアグラムは、すべての人が両親ともつことになる可能性のある九つの関係を概説するからである。すべての人には例外なく、生きていようと死んでいようと、 一緒にいようと不在であろうと、よい親であろうと悪い親であろうと、二人の親がいる


すべての子供が両親に対してとり得る基本的な定位は九つしかないため、性格の基本タイプも九つである。人はみな、遺伝学的な素質と環境的な要素を含めた幼児期の全体験から、結局、次のような九つの全般的定位の一つを身につけ、したがって、九つの性格の基本タイプの一つに発達する。


追従型の幼児期


すべての性格の基本タイプは、初めての定位が「母」に対してであったか、 「父」に対してであったか、それとも、同等に「父と母」に対してであったか、その結果によって決まる。(この二種類の定位の組み合わせが、弁証法になっていることに留意されたい。)


次に、その最初の定位は、本質的に、「肯定的」「否定的」または「両価的」のどれか一つであったであろう。(この二つの態度の組み合わせが、もう一つの弁証法になっていることに留意されたい。)子供がどちらの親に、どのような種類の定位で依存するかによって、九つの別個の性格のタイプが生み出される。


■父親に向かうタイプ(追従・自己縮小型で法と秩序のタイプ)

6・2・lのグループ(父親に向かうタイプ)は追従的であることによって自分自身を防衛する性格のタイプ(ホーナイの「他者に近づく」タイプ)である。 一般的に、これらの人たちは、法と秩序の性格のタイプである。従順さが全体像を特徴づけるが、彼らは、実際には、攻撃的な傾向と追従的な傾向の混じり合った人物である


他人もしくは不安から圧迫を受けると、法と秩序のタイプは、破壊的な行動を爆発させる傾向がある


父親の影響、そして、父親によって象徴される内面化された禁制の影響が、疑い深くて権力に盲従する性格(不健全なタイプ6)独善的で懲罰的な人格(不健全なタイプ1)そして、罪悪感がしみ込み、人を操るタイプ(不健全なタイプ2)を生み出す。これら三つのタイプはすべて、社会のしきたりを内面化させてしまっているため、それぞれのやり方で権威の象徴の役割を演じる一フロイトの用語では、彼らは非常に活発な超自我をもつ。


子供の両親に対する定位は、性格決定の主要な要素の一つであり、性格のタイプは、最終的には文化の変化に影響を与え、今度は、文化の方が両親の子供の育て方に影響を与え・・・こうして、この循環を永続させることは、驚くに当らない。人、家族、文化は、相互に依存する他の二つ抜きに、その一つはあり得ない

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キルケゴールの箴言
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