fc2ブログ

自分を実験の材料に

アンソニー・スティーヴンズ「ユング」講談社選書メチエ


その精神障害は、 1913年の秋に繰り返し見た一つの恐ろしい幻覚から始まった。北ヨーロッパ全体が血の海に覆われるという幻覚だった。その後、次のような一連の夢をみた――ヨーロッパ全体が北極からの寒波に襲われて凍ってしまう。そのなかでユングは、戦車で通りかかったゲルマン神話の英雄ジークフリートをライフルで撃ち殺す


たえまない空想の流れがどっと解放された。【・・・・・】私はたえず緊張状態のなかに生きていた。しばしば巨大な岩が頭上から落ちてくるように感じた。雷嵐が次から次へと続いた。【自伝】


時として精神障害はかなりひどくなり、彼は狂気すれすれのところまで行った。彼は庭で子どものように遊び、頭のなかで声を聞き、想像上の人物と会話しながら、あちこち歩きまわった。あるときは自分の家に死者の霊がひしめきあっているように感じた。


だが彼は常人にはない強靭な精神の持ち主であった。こうした精神の混乱状態を、自分にたいして、ある実験がおこなわれていると見なしたのである。精神科医が神経衰弱に陥れば研究にとって恰好の機会が得られる、と。


彼は精神障害の経験全体をじかに研究することができ、それを患者の治療に役立てることができた。この考え、つまり私は自分自身のためだけでなく患者のためにも、危険な仕事に取り組もうとしているのだという考えは、危機的な段階を何度も乗り越えるにあたって、私の助けとなった


【・・・・・】精神科医であるこの私自身が、自分の実験のほとんど全段階において、精神病の素材であり、狂人の中に見出されるのと同じ心的材料に出会わねばならなかったことは、もちろん皮肉であった。これは、精神病患者を致命的に混乱させる無意識的イメージの宝庫である。だがそれはまた、われわれの合理的な時代からは消えてしまった神話的創造力の母体でもある。【自伝】


ユングはジークフリートを殺す夢から、次のように考えた

――自分の人格No.1はこの英雄像に同一化した。だがその英雄像に具現化されている意識的な理想はもはやじゅうぶんではなく、犠牲にされなければならなかったのだ。「なぜなら自我の意志よりも高いものが存在し、人はそれに対して頭を垂れなければならないのだ」。彼は自分の内面へと向かい、人格No.2と向き合って、そこに見出した強いエネルギーを解き放った。


空想を捕まえるために、私はしばしば急降下を思い浮かべた。何度か、 一番底に到達しようとさえした。最初、いわば三百メートルくらい深いところに達した。三度目は宇宙の深淵の縁にいた。それはまるで月への旅のようでもあり、虚ろな空間を降下していくようでもあった。最初にクレーターのイメージがあらわれ、自分が死者の国にいるのだと感じた。別世界の雰囲気があった。【自伝】



記事分類
新薬販促のため多額の金銭をバラまき
原子力発電所の仕組み M.V.ラマナとサジャン・サイニ
小出裕章「原発の終わらせ方~福島原発事故から10年のいま~」
ウクライナ・オン・ファイヤー
ジョン・ミアシャイマー「ウクライナ戦争を起こした責任はアメリカにある!」
健全な精神の小さな火花を燃やせ!
藤原直哉/4月:時局分析
藤原直哉/5月:時局分析
*
*
ランキングに参加しています
FC2ブログランキング
INポイントランキング
リンク
プロフィール

佐藤蓼丸

Author:佐藤蓼丸

内村鑑三の箴言
キルケゴールの箴言
芥川龍之介「蜘蛛の糸」朗読
クソどうでも良い仕事" は誰のため?
故赤木俊夫氏の主治医インタビュー
「悪の凡庸さ」ウィシュマさん死の映像
悪の本質は「受動性」
なぜ少なからぬ政治家はカルトに親和的なのか
能力の低い人ほど自己評価が高い/ダニング=クルーガー効果
能力の高い人ほど自己評価が低い/インポスター効果
【真理省】が捏造するプロパガンダ「オーウェル的な」
暴君のいない暴政「カフカエスク」
ナルシシズムという病
加藤諦三「ナルシシズムと攻撃性」
ケン・ロビンソン: 「教育の死の谷を脱するには」
陰(イン)陽(ヤン)の隠された意味 - ジョン・ベラミー
トゥルシー・ギャバード:大統領選スピーチ
エマ・ワトソン親善大使 国連でのスピーチ
マララ・ユサフザイ 国連本部でのスピーチ
グレタ・トゥーンベリ COP25でのスピーチ
「ミソジニー」ってよく聞くけど、どういう意味ですか?
予備校のノリで学ぶ「エントロピー」
諸行無常と諸法無我
藤原直哉「老齢先進国はどこへ行く」
藤原直哉「世界のタガが外れつつある」
藤原直哉「錯乱から沈黙に」
藤原直哉「トランプがSNSに戻ってきた」
金利上げるの?上げないの?【デモクラシータイムス】
2008年金融危機からの禁じ手による反則負け