交差免疫仮説
COVID-19有識者会議「日本人における新型コロナウイルスIgM、IgG、IgA」より
■抗体検査結果から示唆される交差免疫の存在
新型コロナウイルスの流行が広がるにつれて、日本人を含む東アジア地域と欧米では、COVID-19の罹患率および重症度が異なることが明らかになってきた。その機序としては、新型コロナウイルス受容体のバリアントの相違などの遺伝的要因、マスクの着用や衛星観念の相違といった社会的背景があると推定されているが、その一つの機序として交差免疫の存在が考えられている。
交差免疫仮説とは、新型コロナウイルスでない感冒を引き起こす従来のコロナウイルスへの既往があると、新型コロナウイルスに対する交差反応性を示す抗体を産生するメモリーT細胞が存在し、新型コロナウイルスに対して抵抗性を示す、という仮説である。
実際、新型コロナウイルスと他のコロナウイルスとの間には、構造上の相同性がみられ、最近、新型コロナウイルス非罹患者に、新型コロナウイルスに対する液性免疫が存在することが報告された。しかしながら、日本人のどれくらいの割合にこの交差免疫が存在するかは不明である。
■抗体価の変動から推定される日本人における交差免疫存在率
新型コロナウイルスにかかわらず、ウイルスに初めて感染すると、まずIgMが誘導される。その後、IgMがクラススイッチを起こし、IgGが産生される。すなわち、ウイルスに初感染した場合は、そのウイルスに対するIgMがIgGに先行して上昇することが免疫学の概念として確立している。
日本人における新型コロナウイルスに対する抗体の変動は、IgGの上昇がIgMの上昇よりも早い例が多いことが特徴である。IgMが上昇するが、IgGは上昇しないパターンおよびIgMがIgGに先行して上昇するパターンを交差免疫無しのパターン、
IgGが上昇するが、IgMは上昇しないパターンおよびIgGがIgMに先行して上昇するパターンを交差免疫有りのパターン、IgMとIgGが同時に上昇するパターンおよびどちらも上昇しないパターンを交差免疫不明のパターンに分類した。
52症例について解析したところ、【図】に示すように、約75%が交差免疫ありのパターンを示した。海外の文献でも、IgGは他のウイルス感染症と比べて比較的早期に出現することが示されているが、IgMと同時期あるいはIgMにやや遅れて上昇するという報告がほとんどである。同一の測定系での比較や他の東アジア地域での研究が必要であるが、本研究結果は、日本人において、新型コロナウイルスに対する交差免疫が存在する可能性を示唆している。