免疫応答の低下と炎症反応
京都大学 iPS細胞研究所「加齢やサイトメガロウイルス感染が新型コロナウイルス反応性キラーT細胞に与える影響」より
免疫応答の能力は一般的に加齢に伴って徐々に弱くなり、その一方で炎症反応が起こりやすくなることが知られています。ウイルスに感染した細胞をウイルスごと排除できるキラーT細胞は、免疫細胞の中でも感染症の遷延や重篤化を防ぐ上で主要な役割を果たしています。
免疫系は、異なる特異性を持つ抗原受容体を発現するT細胞集団を一定数準備しておくことで、未知の抗原に対する反応性を保証しています。
胸腺という免疫臓器から産生され、反応する抗原にまだ遭遇していないT細胞をナイーブ(型)T細胞といい、この分画の割合が高いことは一般に、新型コロナウイルスなどの新しい病原体をT細胞が認識できる可能性が高いことを意味します。
しかし、胸腺組織は思春期以降に 機能低下を来すため、ナイーブ(型)T細胞の割合は加齢とともに徐々に低下します。
一方、特定のウイルスに一度感染すると、記憶細胞を体内に残すことで過去に遭遇したウイルスの情報を記憶することができます。同じウイルスに遭遇した場合にはその記憶細胞が素早く増殖して対応し、感染を未然に防いだり症状の悪化を抑えたりします。
この記憶細胞を人為的に誘導するのがワクチンです。 新型コロナウイルスは私たちがはじめて遭遇するウイルスですが、風邪の原因のひとつであるコロナウイルスによく似ているため、こうしたウイルスに対する記憶細胞の一部が新型コロナウイルスにも反応しうる(=交差反応)という報告があります。
すなわち、未感染の人でも新型コロナウイルスに対する免疫記憶をすでに一定程度もっていると考えられます。こうした背景から、加齢や、過去の感染によって既に獲得した新型コロナウイルス反応性記憶型T細胞(交差反応性T細胞)の数や機能の違いが、COVID-19の重症化の年齢差や個人差に影響を与えている可能性が指摘されています。