新型コロナウイルスとT細胞
京都大学 iPS細胞研究所「加齢やサイトメガロウイルス感染が新型コロナウイルス反応性キラーT細胞に与える影響」より
一方、サイトメガロウイルスなどの潜伏感染ウイルスへの感染が、T細胞の構成を大きく変化させることが知られており、またワクチン効果にも影響するという報告があります。サイトメガロウイルスは健常な人でも多くの人が感染しているウイルスであり、このウイルスに感染しているか否かが、新型コロナウイルスに対するT細胞の応答性にも影響を及ぼす可能性が考えられました。
そこで我々は、新型コロナウイルスに感染していない若齢者と高齢者が体内にもつ新型コロナウイルス反応性T細胞の数や性質を調べることで、これらの可能性を検討しました。
■研究結果
1. 新型コロナウイルスに反応できるT細胞は、若齢者と高齢者ともに、主に記憶型に検出されることが分かりました。また、どの分画においても若齢者と高齢者との間に有意な差は見られませんでした。
2. 新型コロナウイルス反応性キラーT細胞のうち、ナイーブ型キラーT細胞は高齢者で有意に少ない値となりましたが、最終分化したキラー細胞(TEMRA)や老化したT細胞(CD57発現細胞)の割合は多くなりました。
また、キラーT細胞はヘルパーT細胞に比べると、個人差間での表現型のばらつきが大きい傾向にあることが明らかになりました。
今回の研究協力者のうち、高齢者ではすべての人で、若齢者ではおよそ半分の人で、サイトメガロウイルスに感染していました。
そこで、若齢者のうち、サイトメガロウイルス非感染者と感染者とで、新型コロナウイルス反応性キラーT細胞の割合を調べた結果、感染者では、より高齢者に近い傾向、すなわち、ナイーブ型(NP)の割合が低下し、最終分化したT細胞(TEMRA)や老化したT細胞(CD57を発現する細胞)の割合が高くなる傾向がみられました。
■まとめ
本研究により、高齢者では新型コロナウイルスに対する免疫応答のうち、ヘルパーT細胞が関与する応答(抗体産生など)と比較して、ウイルス感染細胞を直接殺傷し排除するキラーT細胞の機能低下がより顕著であることが明らかとなりました。
このことから、高齢の患者で重症化しやすい理由の1つが、体内に予め存在する新型コロナウイルス反応性キラーT細胞の加齢に伴う変化である可能性が考えられます。
また、サイトメガロウイルスに感染した若齢者の新型コロナウイルス反応性キラーT細胞の表現型は、非感染の若齢者のそれに比べてより高齢者に近かったことから、サイトメガロウイルスの感染が、COVID-19の症状の著しい個人差を説明する一因となる可能性があります。
これらのことは、新型コロナウイルスに対する高齢者のT細胞応答を増強するためには、キラーT細胞を標的とすることがより効果的である可能性を示唆しています。以上、本研究はCOVID-19の高齢者への治療法やワクチン戦略の参考になると期待できます。