内向的直観の特殊性

<アンソニー・スティーヴンズ「ユング」講談社選書メチエより>

ユングが提示したのは、それを基礎にして一つの心理学全体を構築しうるような、一つの基本的概念である。潜在的には、それは物理学における量子論にも匹敵するほどの重要性を持っている。物理学者が原子や波動を、あるいは生物学者が遺伝子を研究するように、心理学者の仕事は集合的無意識と、そのさまざまな機能的単位を研究することだ、とユングは主張した。その機能的単位をユングは元型と名づけることになる。元型は「我々すべてに共通の心の構造」であり、それが集まって「古代からの人類の遺産」を構成している。ユングは元型を、人類全体に共通の行動の特徴と、典型的な経験を開始・統御・媒介する能力を持つ神経と心理学的な「中枢」と捉えた。元型は、階級・宗教・人種・地理・歴史に関わりなく、似たような思考・イメージ・神話のエッセンス・感情・観念を生じさせる。ある個人の元型的蓄えの全体が集合的無意識を構成し、その権威と権力は、人格全体を統合している中核に帰属し、その中核が「自己」である

 

<C・G・ユング著「タイプ論」みすず書房より>

内向的構えにおける直観は、無意識の諸要素とでも呼べるような、内的客体に向けられている。内的客体は物質的現実ではなく、心的な現実であるが、意識に対しては外的客体と同じような関係性を持っている。内的客体は主観的なイメージの形で現れるが、このイメージは外的経験の中で触れることはできないものであり、集合的無意識と呼ばれる。ちょうど私たちが外的客体を相対的にしか知覚できないように、内的客体も私たちが到底到達不可能な客体自体の本質を持っている。外向的直観の場合これは可能な限り抑圧されているのに対し、内向的直観の場合決定的要因となっている。

 

内向感覚では、無意識によって生ずる神経刺激伝達を知覚した場合、その範囲に限定して留まるのに対し、内向的直観は主観的要因の感覚面を抑制し、この刺激が誘発したイメージを捉える。感覚はその性質・強さ・時間経過・始まりと終わりを捉えるがそれ以上は何もしようとしない。またその障害の源泉である「内容」にまで迫ることはしない。これに対し直観は刺激から受けとるのは最初のきっかけだけである。直観は即座に感覚の背後を探り始め、例えば眩暈発作という現象を引き起こした内的イメージを知覚する。

直観が知覚するのは、心臓を射抜かれた男のイメージ(直観の機能により無意識の背後に隠れて見えない幻視を生き生きと感じる)である。直観はこのイメージに引き付けられ離れず、あらゆる細部を探索しようとする。直観はこのイメージをつかんで離さず、イメージが変化し、発展し、消失する様を、目を輝かせて見届ける

 

内向的直観は意識の背後にあるあらゆる過程を、外向的感覚が外的客体を捉えるのと同じくらい明瞭に捉える。内向的直観型の人にとって無意識のイメージは、外向的感覚型が客体に持つのと同じくらいに高い地位を獲得するのである。

 

また外向的直観型が外的客体に対して示す驚くべき無関心さを、内向的直観型も内的客体に対し示す。ちょうど外向的直観型が絶えず新しい可能性を嗅ぎだして、自分や他人の不幸などお構いなしに追いかけ、思いやりなどどこ吹く風と、永遠に変化を追い求めるあまり、ほとんど出来上がっていないものを早くも打ち壊してしまうように、内向的直観型の人もイメージからイメージへ渡り歩き、無意識という多産な子宮のもつあらゆる可能性を、自らに結び付けるということをしないのである

 

ちょうど世界を感覚的にしか捉えない人にとって、世界が道徳的な問題となることがないように、直感型の人にとってもイメージの世界が道徳的な問題となることは決してない。世界はこの双方にとって審美的な問題・知覚の問題なのである。このようにして内向的直観型の人には、自分に身体が存在することも、それが他人に影響を持つということも意識されなくなってしまう

 

外向的立場から批判すれば、「彼にとって現実は存在せず、彼は実りのない夢想にふける」ということになる。無意識のイメージを観照することは、汲めども尽きぬ創造力を生み出すとはいえ、直接役に立たないという意味で非生産的である。しかし、場合によっては新たな潮流を促す可能性を持つという意味において、外的世界から最も遠いと思われるこの機能も、人間の心的生活に欠くことのできない「心の収支決算」には必要不可欠なのである。もしこのタイプが存在しなければ、イスラエル民族に預言者が現れることはなかっただろう。

コメントの投稿

非公開コメント

はてなブックマーク
このエントリーをはてなブックマークに追加
リンク
ブログラム
blogramのブログランキング
カテゴリ
神話の力
特定の文化や宗教に限定されない、新たな時代の神話の必要性
見えざる異性
女性原理が完全に欠如すると、男性は世界から切り離される。男性原理が完全に失われた女性に人格はない。
新ターニング・ポイント
衰退の時極まるとターニング・ポイントに至る
無境界
破壊と暴力は成長の失敗の結果である。エーリッヒ・フロム
BlogPeople
投票ボタン
ブログ村投票
プロフィール

スエスオ

Author:スエスオ
オリジナルのエッセイ・ブログを目指して鋭意更新中

ジャンプ!
自由からの逃走
人間性の諸価値から逃走する人は人間以下へ堕落する
タイプ論
人生に暗示を見つけられない人は、人生に打たれる
9つの性格
自己洞察が新しいトレンド
アメリカ個人主義の行方
進歩を目指し、変革し続けるアメリカの「市民」